司法書士の川嵜です。
司法書士は、資格を取ったら終わりではなく、業務に関係がありそうな勉強を継続しています。

今回は、私の備忘録です。

事業承継の案件を手がけていると、役員退職金規程をよく提案したりしていたのですが、
これまでは税理士さんなどに丸投げだったので、自分なりに勉強しました。

いつもお世話になっている、某保険会社の方にお願いして、
資料をいただきました。

Iさん、どうもありがとうございます!

資料は著作権の関係がありますので、ここにはアップできないですが、
自分なりに理解したことをまとめます。

退職金のもらい方は2とおり

・生前にもらうもの ⇒ 社長の老後の資金
・亡くなった後、遺族がもらうもの ⇒ 遺族の生活資金

税金的な注意も2とおり

・会社側 ⇒ 損金にできるか?
・もらう側 ⇒ 相続税や所得税はどうか?

会社が損金にできる範囲

しっかり決まっているわけでないようですが、一応の目安として

役員報酬の月額×役員在任年数×功績倍率

例えば、
役員報酬が月額80万
社長在任期間が25年
功績倍率 3倍(社長の場合。他の役員だと2倍くらいが多いそう)

会社が損金にできる限度額
=80万×25×3
=6000万

つまり、この社長の場合、退職金で6000万円までは損金にできる可能性が高い、ということになります。
(必ず顧問税理士にご確認ください)

もらう側の税金 その1 生前退職の場合 ⇒ 所得税

まずは役員退職金は「分離課税」ということ
先の社長の場合、年収が80万×12ヶ月=960万円
ここにさらに6000万円の所得があるとすると、所得税がとんでもないことになります。

しかし、退職金は分離課税
退職金だけ独自の課税の計算をします。

所得税を出すためには、まずは、所得金額(課税退職所得金額)を出します。
そこに税率をかける。

課税退職所得金額
=(退職金-退職所得控除額※)/2

つまり、退職金から、一定の額が控除され、さらにそれを1/2にして、課税額が計算されます。
2で割れるので、通常の所得税よりかなり有利ですね。

税率は、退職所得金額による累進課税

A 課税退職所得金額 B 税率 C 控除額
1,000円から1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円から3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円
(令和3年の場合)

※ 退職所得控除額
ここで問題になるのは、退職所得控除額
こんな感じで計算します。

役員の年数が20年以下:役員の年数×40万円
役員の年数が20年超 :800万+70万×(役員の年数-20年)

先の社長(25年)の場合は、こんな感じ
退職所得控除額=800万+70万×(25年-20年)
 =1150万

そうすると、退職金にかかる所得税は(6000万もらったとして)
所得金額=(6000万-1150万)/2
 =2425万

上の表で当てはめると
課税額=2425万×40%-279万6000
 =690万4000円(約690万)

つまり手元には(概算で)
6000万-690万=5310万円 残ります

注意)このほかに住民税もかかるはずです。

これは大きいですよね。
普通6000万も収入があれば、普通半分くらい税金でなくなりますが、
退職金なら、かなり大きな金額を手元に残せるわけです。

もらう側の税金 その2 死亡退職の場合 ⇒ 相続税

社長が社長のまま亡くなって、遺族が死亡退職金をもらう場合は、相続税で処理されます。
しかしこの場合も、有利な基礎控除がある。
500万×相続人の数

相続人が3人なら 1500万円が控除され4500万円が、相続税の課税の対象に加算されます。

※ 相続税は他の遺産と合算して計算されますので、
 ここではとても算出はできないです。
 シミュレーションは、顧問税理士さんや、資産税に強い税理士さんにお願いしてください。

退職金の基礎控除は、生命保険の基礎控除とあわせてつかえますので、
相続税の遺産額を算定するとき、上の例なら合計で3000万円控除できるのは大きいですよね。

そもそも原資はどこから?

このように、払う方にももらう方にも様々なメリットがある退職金ですが、こんなに大きなお金をどこから用意するのか?

そこで登場するのが生命保険

社長が生前で受け取る場合
 ⇒ 積立式の保険を、中途解約。解約返戻金から用意することが多いようです。
(または、金融機関からの借入も)

社長のまま死亡した場合
 ⇒ 死亡保険金

会社から社長個人や遺族に渡す流れ

退職金規程と株主総会が必要になります。

生命保険会社
 ↓
会社(受取人)
 ↓(退職金規程+株主総会)
社長個人 or 遺族

お金の流れはこのようになります。

死亡退職金は、遺産分割協議なしで、受け取れること。
でも、退職金規程と株主総会が必要になります。

退職金規程は事前につくっておくとスムーズですし、
退職金を支払うとき、株主総会は必須です。

司法書士としては、とくに株主総会の段取り(議事録作成)がお手伝いできると思います。

会社が株を買い取る(金庫株・自己株)資金にも使える

その後、保険のIさんから追加情報をいただきました。

会社が社長にかけていた死亡保険金を、会社の株を買い取る(金庫株、自己株)資金にも使えるとのこと。

流れはこんな感じ

社長の死亡
 ↓
会社に保険金が支払われる
 ↓
相続人が相続した株を、会社が買い取り
 ⇒ 金庫株・自己株

使い方としては、相続人で、会社に関与したくない人が会社の株を相続した場合
その相続人から会社の株を買い取る際に使えると思います。

メリットとしては、
・遺族にお金を渡せる(納税資金、生活資金)
・会社側は、資金負担なしで、株を買い取れる
・会社側としては、その人の議決権がなくなる(経営に関与しなくなる)

などがあげられます。

生命保険の、すごい特徴は、死亡後すぐ支払われること。
分割協議や遺言が不要で。

保険会社によっては、死亡診断書(死体検案書)のコピーを用意して、簡単な書類に記入すれば、
即日である程度の金額を現金で用意してくれる場合もあるそうです。

この即金性も生命保険の大きなメリットですよね。

あなたも生命保険には入っているでしょうから、
即日の現金をいくらまでもってこれるか
保険の担当者に聞いてもいいかもしれませんね。