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信託の終了のさせ方(専門家向け)

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2025.09.24
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司法書士の川嵜です。


今日は家族信託について、少し専門的なお話をしたいと思います。
一般の方向けというよりは、専門家向けの内容ですので、「ちょっと難しいな」と思われた方は飛ばしていただいても大丈夫です。
ただ、信託に携わる専門職の方にとって「出口設計」は避けて通れないテーマ。
信託を作るときには華やかなスタートに目が向きがちですが、実際に大変なのは終わりの局面です。
今日はその「信託終了の設計」について、基本的な考え方を整理してみます。


■■ 信託設計における「出口」の重要性


私はこれまで、多くの信託契約の設計や契約書のチェックに携わってきました。
司法書士の先生方が作成した契約書を拝見する機会も多く、その中で必ず確認するのが「信託終了の条項」です。
信託には必ず終わりがあります。
ところが、この「終わり方」が甘いと、終了時にトラブルが発生し、関係者が困ることになります。特に設計した専門家がすでに現役を退いている10年後・20年後に問題が生じると、当事者だけでは解決できず、余計に複雑化するケースもあるのです。
だからこそ、信託は「きれいに終わる」設計が必須だと実感しています。


■■ 信託の基本構造


信託を理解するには、まず「誰が何をする制度か」を整理する必要があります。
大きく分けると以下の3者です。
・委託者:財産を託す人
・受託者:託された財産を管理・運用する人
・受益者:信託財産から利益を受ける人
さらに、信託終了時に最終的に財産を引き継ぐ人を帰属権利者と呼びます。
信託の本質は「所有と管理を分けること」です。
委託者が財産を受託者に託し、受託者がその財産を管理しますが、受益権という形で利益を受けるのは受益者です。
ここに「契約関係」と「財産権関係」が二重に存在するため、終了の場面では必ず整理が必要になります。


特に不動産信託の場合は、登記という“法務局のチェック”が必ず入ります。


登記官が納得しなければ信託終了の登記は受理されません。
ここで終了条項があいまいだと、書類が戻されてしまい、実務がストップしてしまうのです。


■■ シンプルなケース:委託者死亡による終了


もっともシンプルな設計は「委託者が亡くなったら信託を終了させる」というものです。
この場合、第2受益者を定める必要はなく、帰属権利者を委託者が希望する人(配偶者や子ども)に設定すれば済みます。
しかし、ここには落とし穴があります。
委託者死亡時の状況が、必ずしも当初の想定どおりとは限らないからです。
たとえば、当初は「配偶者が元気だから問題ない」と考えていても、いざ委託者が亡くなった時には配偶者の健康状態が悪化していることもあります。
「死亡=終了」とする設計は、一見シンプルですが、変化する家族の状況に柔軟に対応できないという弱点を持っています。

私は基本的に、この方式を選びません。


■■ 合意による終了のメリット


私が実務でよく採用するのは、「受託者と受益者の合意」によって信託を終了させる方式です。
この方式であれば、その時々の家族の状況に応じて終了のタイミングを決めることができます。
委託者が亡くなった後も、残された家族の合意で「まだ続けた方がいい」「今終わらせよう」と判断できるのは大きなメリットです。


■■ 合意終了の際の3つのポイント


第2受益者を定める必要がある
例:配偶者、子どもなど。さらに第3受益者まで定める場合もあります。
帰属権利者を「終了時の受益者」とする
そうしないと贈与税が発生する可能性があります。
例えば、お母さんが受益者、そのときに信託を終了させて、帰属権利者が娘さんだったとしたら、財産がお母さんから娘さんに「生前贈与」されたことになります。
つまり、贈与税が発生するということです。
終了条項を明確に書く
「受託者と受益者の合意により終了できる」と明文化することが重要です。
ここを外すと、終了の際に「登記が通らない」「贈与税が課される」など深刻な問題につながります。


■■ 金銭信託と不動産信託の違い


終了設計の難しさは、信託する財産の種類によっても変わります。


金銭信託:比較的柔軟。合意で「この人に渡そう」で済むことが多い。
第三者の関与は、銀行くらいだが、銀行の窓口では、誰に財産が引き継がれたかはチェックする仕組みがない。


不動産信託:登記が必要。終了の条項が明確でないと登記官が認めず、信託が終了できない事態になる。
つまり、不動産信託では「出口設計の不備=実務が進まない」ことを意味します。
専門家が契約書を作る際には、この点を特に意識しなければなりません。


■■ よくある失敗例


私が相談を受けた案件の中で、こんなケースがありました。
その信託契約では「委託者が亡くなったら信託終了」とだけ書かれていました。
ところが、実際に委託者が亡くなった時、受託者と受益者の間で「今すぐ終了させてよいか」について意見が割れたのです。
結果として、不動産の登記もできず、相続の処理が遅れてしまいました。
もし契約時に「受託者と受益者の合意で終了できる」と定めていれば、もっとスムーズに処理できたはずです。


■■ 実務での工夫


合意による終了を採用する場合、私は次のように設計することが多いです。
委託者死亡後も自動終了にはしない
第2、第3受益者を定める
帰属権利者は「信託終了時の受益者」と明記
終了の判断は受託者と受益者の合意による
この「三点セット」を押さえておけば、10年後・20年後に終了時を迎えても大きな混乱なく処理できます。


■■ まとめ


信託の出口は、契約時には遠い未来の話に思えるかもしれません。ですが、確実にその日はやってきます。
終了時にトラブルなく処理するためには、
終了自由の設計
第2・第3受益者の設定
帰属権利者を「終了時の受益者」とする
この3点を押さえておくことが欠かせません。
「終わりよければすべてよし」という言葉があります。信託においても同じこと。

美しく、トラブルなく終われるように設計してこそ、本当に役立つ信託になるのです。


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