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「親が施設に入ったら実家を売りたい」贈与、後見、家族信託の比較

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2026.07.06
ChatGPT Image 2026年7月6日 14_46_52

「親が施設に入ったら、実家を売りたい」


この場合、「生前贈与でお願いします」と言われることも。


親が施設に入ったら空き家。

そのときは、実家を売って、施設費用に充てたい。


でも施設に入るときは親は認知症かも。

認知症などで判断力がなくなると、そもそも売却の手続きができない。

だから、元気な今のうちに、子どもに生前贈与しておきたい。


この場合、相談された方から「贈与」と言われているので、

贈与の手続きで進めるのは簡単です。


でもちょっと待って。

 

相談者から具体的な手法を指定されたとき、そのまま登記の依頼として受けてしまうのか、

それとも一度立ち止まって他の選択肢も含めて比較検討するのか。

 

僕は、こういうケースでは「他の方法との比較」を提示するようにしています。

 

理由はシンプル。

 

何も提案せずに贈与登記だけして、

後から依頼者が他の方法のデメリット・メリットを知って

「こんなことになるなら贈与しなければよかった」

となるのを避けたいから。


専門家としての説明責任を果たしていなかったことになりかねないですよね。

 

今回は、このケースで僕がどう比較検討して提案しているかを、実務目線でまとめてみます。

 


■■ 前提:判断能力がなくなっていたら「成年後見」一択

 

まず前提の確認です。

判断能力が失われた後に打てる手は、成年後見(法定後見)しかありません。


本人確認・意思確認ができない状態で進めることはできませんので、

事前の対策は「認知症になる前」の話になります。

 

事前対策としては、次の3つ。

・任意後見契約

・生前贈与

・家族信託

 

依頼者が言う「生前贈与でお願いします」は、この3つのうちの1つを最初から選んでいる状態、ということになります。

 

■■ 法定後見:説明はするが、事前対策としては選択肢に入らない

 

法定後見のメリットは、(今は)「何もしなくていい」ことです。

 

親に判断能力がある限り、親自身の名義でそのまま売却できます。

 

ワンチャン、施設に入っても判断能力が保たれていれば、後見制度自体使わずに済む可能性もあります。

 

デメリットは、実際に使うことになった場合の負担です。

 

・後見人に子どもがなれば、メッチャめんどくさい

ただでさえ、親に変わってお金の出し入れをしなければいけないのに、

領収書を全部取っておいて、出納帳をつける。

そして、毎年、家庭裁判所への収支報告・財産目録を提出しなければいけない。

まあ、とにかくめんどくさい。

 

・第三者が選任されると報酬発生

そんなめんどくさいことを第三者がやるとなると無料ではできません。

目安は月3万円前後、年間36万円程度。

10年続けば360万円規模になり、地方の実家の売却価格(500万円程度だとして)に対して、後見人報酬だけで大きく食われるケースも

 

・誰が選任されるかは家裁の判断で、子供が確実になれるとは限らない

事前対策の相談を受けている時点で、これは選択肢というより「参考情報として説明する」位置づけかなと思っています。

 

 

■■ 任意後見:後見人は選べるが、監督人のコストがのしかかる

 

任意後見のメリットは、法定後見のデメリットである「誰が後見人になるかわからない」を解消できることです。

あらかじめ「子供にお願いする」と決めておけます。公正証書ね。

 

デメリットは、任意後見監督人が必ず選任される点です。

監督人の報酬は成年後見人報酬の概ね半額程度が目安とされ、月1.5万円前後、年間18万円程度。

子供が任意後見人になっても、収支報告・財産目録作成の実務負担は変わらず、

そこに監督人報酬が乗ります。第三者に依頼すれば、後見人報酬+監督人報酬のダブルコストになります。

 

なお、今後の法改正で監督人が不要になるケースも出てくると言われていますが、運用の詳細はまだ見えていません。

 

個人的な予想としては、後見実務の実績がある人は監督人なし、一般の方はつく、という運用に落ち着くのではと見ています。

あくまで川嵜の私見ね。

 

■■ 生前贈与:シンプルだが、税務面のリスク

 

依頼者が最初に希望していた方法です。

 

メリットは、手続きがシンプル。

名義が子供に移り、子供が単独で売却の意思決定・登記ができること。

 

デメリットは、とにかく税負担です。

 

・贈与税(相続時精算課税を使えば回避できる場合もあるが、税理士対応(報酬)が必要)

・不動産取得税(土地・建物それぞれに課税。地方の一般的な住宅でも10万〜20万円程度)

・登録免許税(贈与は固定資産評価の2%。相続の0.4%と比べると差が大きい)

ここまでで、設定時に数十万円規模の税負担が発生します。

 

さらに実務上、依頼者に必ず確認すべきなのが売却時の譲渡所得税です。

もう一度いいますよ。

「売却時」の譲渡所得税。

 

譲渡所得税って、利益が出たらその利益にかける税金。

 

売ったとき金額 - 買ったときの金額 > 0

つまり儲かったら、その儲かった金額に約20%かかります。

(所有期間が5年以下なら約40%だけど、そんなことはないと思うので、割愛)

 

問題は「買ったとき」の金額を証明しなければいけないこと。

取得費(購入時の契約書等)が確認できないと、

売却価格の5%を取得費とみなされ、実質的に売却額のほぼ全額に近い部分が課税対象になるリスクもあります。

 

500万で売れたら約100万円税金になる可能性も!

 

そこで登場する救世主的な制度は、

「居住用財産の3,000万円特別控除

 

これって、自分の家を売ったら、3000万円は、売値から引いてやるよ!って制度。

だって自宅を売ったら、次の自宅が必要になるのに、税金たくさん取られたら、かわいそうですからね。


この制度が適用できたら、地方だったら、自宅を売っても、ほぼほぼ税金がかからない。

 

問題は「自宅」でないと、NGな点。

 

親と子供が同居していない場合、子供にとって親の実家は「自宅」ではないため、

居住用財産の3,000万円特別控除が使えません。

 

そうすると、買ったときの契約書が残っていない場合では、

子どもに生前贈与しちゃうと、

売るとき100万円単位の税金がかかる可能性があるんですね。

 

東京や大阪だったら、もっと大変なことになるでしょう!

 

このあたり、依頼者が把握していないまま贈与登記だけ進めてしまうと、

売却時に想定外の税負担が生じる場合があるので、事前の説明が特に重要だと感じています。

 

あと、生前贈与では受贈者以外の兄弟姉妹の財産にならない(不公平感が出やすい)、って言うのもデメリットの一つですよね。

子ども一人だけ、自宅をもらうことになるので。 


■■ 家族信託:税務メリットと、ちょっと理解が難しい制度

 

家族信託の大きなメリットは、

居住用財産の3,000万円特別控除が使える可能性が高いことです。

 

親を受益者、子供を受託者とする信託を設定すると、

売るときの売買契約書へのサインは受託者である子供が行います。

だって、子どもの名義になっているから。

司法書士としては本人確認は、受託者である子どもに対して行います。

 

でも、税務上は受益者である親が所有者とみなされます。

 

つまり信託って、

・民事上(売買契約書のサイン):受託者である子ども

・税務上(譲渡所得税の対象):受益者である親

という状態を作れるんですね。

 

そのため、控除の判定は受益者である「親」を基準に行うことができます。

 

設定時も、贈与税・不動産取得税は課税されず、登録免許税も土地0.3%・建物0.4%程度で、

贈与の場合の5分の1以下に抑えられます。

 

また、家族信託は、子ども兄弟姉妹間の不公平感も解消できます。

 

信託終了時の残った財産を誰がもらえるか(帰属権利者)を柔軟に設計できるため、

兄弟姉妹間の公平を図りやすいというメリットもあります。

 

設定時に家族全員を交えて話し合う形にすることで、後々の「そんな話は聞いていない」というトラブルも予防しやすくなります。

 

デメリットは、スキーム設計・契約書作成のハードルがやや高く、依頼者への説明にも時間がかかることです。

 

 

■■ まとめ:依頼者への提案の組み立て方

 

今回のような「認知症前の実家売却対策」の相談では、次のように整理して説明しています。

 

・法定後見:ワンちゃん何もしなくても良いかもしれないが、もし使うとなると、

子どもが後見人 ⇒ メッチャ大変。第三者が後見人 ⇒ お金が大変

 

・任意後見:後見人は選べるが、監督人コストが問題。もちろん、後見人に子どもがなればメッチャ大変だし、第三者がなれば、その人のコストも発生。

 

・生前贈与:シンプルだが、設定時・売却時の両方で税負担が重くなりやすい。

 

・家族信託:設計にコストがかかり、ちょっと難しい制度だが、税務メリットが大きく、家族間の公平も図りやすい。

 

依頼者が最初から「生前贈与で」と言ってきたケースでも、それぞれの方法のメリット・デメリットの比較を示すと、家族信託を選ばれることが多い印象があります。

 

特に、居住用財産の3,000万円特別控除が使えるかどうかは、依頼者にとって最終的な手残り額に直結する話なので、丁寧に説明する価値が大きいポイントだと感じています。

 

最後までお読みいただいてありがとうございます。 


じゃあね、またね。バイバイ!


PS

こんな本書いています。




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